世間一般にはバレンタインデーと呼ばれる女の子の祭典の最中。
 彼女は綺麗にラッピングされた箱を持って、街中をうろついていた。
「もー……一体何処にいるってのよ。」
 どうやら人を探しているようで、周囲をきょろきょろと見回している。
 女性にしては背が高い、勝気そうな顔立ちの美人だ。
 彼女はまた、ぶつぶつと呟いた。
「皆にはあげたんだよね〜…後はソルだけなんだけど…」
 手にした箱を胸に抱いて、溜息をつく。
「神出鬼没だからなぁ…
 折角特別なの作ってきたのに、無駄になっちゃうかしら、コレ。」
 他の人たちには、まぁ手作りはしたがまとめて作った、いわば量産品だった。
 彼女の手の中にあるそれは、とある人のために目いっぱい心を込めて作ったものだったりするのだが。
 肝心の、渡す予定の相手がさっぱり見つからないのであった。
 暫く街中の、彼が居そうな場所をあたって歩く。
 …何ヶ所くらい回っただろうか。
「……あっ、いた!」
 彼女は街角で、見慣れた背中をやっとの思いで発見した。
「ソル!」
 呼ばれた男はゆっくりと振り返った。
 赤茶の髪の、あまり人相のいいとは言えない男――名をソルという――だ。
「……か。どうした。」
 彼女――はぱっとソルの手に箱を押し付けた。
「これあげる!んじゃね!」
 早口でまくしたてると、はくるりと180度回転してその場から走り去ろうとした。
 だがしかし。
「……待て。」
 ソルの方が一歩上手だったようだ。
 彼女のその行動は、ソルに腕をつかまれるということで未遂に終わった。
「あぁ!
 すみませんごめんなさい離してくださいって言うかお願いだから逃げさして!」
 は顔を赤くして、その手から逃れようともがいた。
 しかしその手を離すつもりの無いソルは、呆れたように呟く。
「うるせぇ、黙っとけ。
 いきなり逃げてんじゃねぇよ。…ったく、礼も言わせねぇ気か?」
 ソルはちらりと箱に目をやった。
 明らかに既製品では無いだろうと思われるラッピングに、僅かに――ほんの僅かに、口の端を上げた。
「手作りなんだろ。食べてやるから、感想くらい聞いてけ。」
「あぅ……」
 は更に顔を真っ赤にして、ラッピングを解くソルの手元を見ていた。
 既にソルはその腕を離していたのだが、恥ずかしさのあまり、逃げ出すという選択肢はもはや彼女の中には無かった。
「何もそんなに照れるこたぁねぇだろうが……ん?」
 呟きつつ、箱の中を見る。
 アクセルたちが、に貰ったと言って食べていた物とは、少し違う気がした。
「………」
 くっと喉の奥で小さく笑って、ソルはそれを一つ、口の中に放り込んだ。
 甘いものはあまり好きではなかったが、コレは嫌いな味じゃないと、彼は思った。
「………美味いぜ。」
「ホントに?」
「ああ。」
 はその言葉に、頬を染めて安心したように笑った。
「よかったぁ……!」
 自分一人だけ違うチョコレート。この反応。これらから導き出される答えは一つしかない。
(多分俺がそれに気付いたと知ったら、この女は恥ずかしさのあまり倒れるんだろうな。
 渡すだけで、この騒ぎなのだから。)
 そう思って、ソルはまた、小さく笑った。
「ああ、礼が未だだったな。」
「……ソル?」
 彼はに一歩近づくと、その額に軽く口づけた。
 それから耳元で小さく呟く。
「……礼、だ。」
「!?!?!?」
 口をぱくつかせてまた茹蛸のようになったに、呆れたように笑って、ソルはゆっくりとその場を立ち去った。
 後には真っ赤な顔をした女性が一人。



 バレンタイン。
 それは年に一度与えられた、女の子が愛する人に心を贈る、
 甘い甘いお祭りの日――――




時期外れもいいところですが、まぁその辺は置いておいて。(マテ
キャラレス掲示板の、凶夜さん(使用キャラクター:ダンサー)とソルのやり取りから。
夢仕様に流れは変えさせていただいているのですが。
レス返した時にネタは浮かんでいたのですが、…凶夜さんの闇慈夢に便乗するという形でw
凶夜さん、ネタの使用許可、ありがとうございましたm(__)m


しかし………誰だこの男(苦笑





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